過労自殺なぜ労災じゃない?
心理的負荷、実態とかい離
慢性ストレスの評価欠落 |
長時間労働やストレスによる過労自殺の増加にともない労災申請が急増しています。しかし、一方で認定されないケースも増え、各地で審査請求や行政訴訟が増えています。認定基準の心理的負荷評価表を形式的に適用し、未認定にされるケースが目につきます。入社半年で自殺した川田直(すなお)さん=当時24歳=のケースを見ると−−。
システムエンジニア川田直さんの場合
川田さんは、システムエンジニアとして東京・調布市にあるコンピューターシステム会社、安田コンピューターサービス(現みずほトラストシステムズ)に1996年4月に入社。わずか半年後の同年9月に飛び降り自殺しました。
遺族は「自殺は業務による強いストレスが原因」として三鷹労働基準監督署に労災請求しましたが認められず、審査請求も棄却されました。現在、労働保険審査会に再審査請求中です。
出来事が中心
労基署は、新人研修や慣れないプログラム開発の業務が心理的負荷となってうつ病を発症させたとしながら、業務の過重性はまったく認められないとして、「業務起因性はない」という矛盾した判断をしました。
過労自殺の認否は心理的負荷評価表にもとづいて判断されています。負荷表は、T(軽度)、U(中度)、V(強度)に区分され、どの区分の出来事″.に遭遇したかでストレスの強度が判断されます。これに業務内否や業務量、労働時間などの心理的負荷の強度を加味し、総合評価で「強」になった場合に過労自殺として認定されます。
川田さんは、最もストレス度の低い「1」に区分される「職場のOA化が進んだ」の項目に適用され、総合評価でも「弱」と判断されました。業務内否や業務量、労働時間、困難性などすべてにおいて「過重」は認められないとされました。
「川田さんは、経験もないまま各種プログラムを作成する極めて高度で専門的な業務を行っていた。単なる職場のOA化によるストレスと同一視することはできない。被災者の業務実態それにともなう精神的負荷の大きさをまったく無視している」と審査請求代理人の吉田健一弁護士は指摘します。
過労死弁護団全国連絡会議によると、心理的負荷評価表を形式的に適用する手法は、過労自殺を認めない理由の根拠になっています。
同弁護団の玉木一成事務局長は「心理的負荷評価表は出来事主義″になっています。それも異常な出来事に遭遇しない限りだめで、慢性のストレスについてどう評価するかなどが欠落しています。こうした心理的負荷表に形式的にあてはめ、認定されないケースが多い」と話します。
同評価表では、大きな病気やけがをしたり、重大な仕事上のミスや労働災害への関与、退職を強要されるなどの出来事に遭遇しない限り、ストレスの強度は「V」(強)になりません。
震えと吐き気
川田さんはコンピューターにはまったくの初心者の新入社員でありながら、研修を十分受けることなく、2カ月後に第一線に配属されました。社内の心臓部″といわれる金融オンラインシステムの運動を制御するためのプログラムをつくる部署でした。
配属後もまともな指導はなく、困難なプログラム作成業務を命じられたほか、課題だけが与えられ、仕事の指示はメモ一枚ですませられるという状況でした。
一人夜遅くまで必死にがんばっていましたが、自殺二ケ月前には同僚に「自分はもうだめだ」ともらし、やがて食欲減退と不眠を訴えるようになっていました。
そして「コンピューターの端末を見るだけで気持ちが悪くなる」という状態になり、手の震えと吐き気を訴えるほど症状を悪化させました。
労基署は、川田さんがこうした厳しい職場環境で働いていたにもかかわらず、心理的負荷評価表の「職場のOA化が進んだ」のケースに該当するとし、ストレス強度は弱かったと断定したのです。自殺はそれに耐えられない心身の脆弱(ぜいじやく)性に起因していると決めつけました。
「労基署の出来事″の選択やその評価は被災者の実態とかけ離れたものになっています。業務以外に精神障害を発症させた原因はないとしながら、一方で原因を個人の問題にする矛盾した判断をしています。被災者は健康で快活な青年期を過ごし、特段の脆弱性は見られません。心理的負荷評価表を形式的にあてはめ業務外とする判断は著しく不当です」と吉田弁護士はいっています。
|